2013-08-27

第五話 臭い部屋 - しんかい6500特別見学会

暑い部屋 後編 - しんかい6500特別見学会からのつづき...


空では太陽と雲がせめぎ合う空中戦が行われる。
しかしこの日に限っては、太陽に挑む相手がどこを探しても見つからなかった。

スイカ割りで割られたスイカのように、二手に分かれたしんかいレポーターたちは、大きな旅行カバンを引っ張りながら歩く海外ツアー御一行のように、添乗員が持つ旗だけを頼りに歩き、何処とも分からない建物の中へと入っていった。


涼しい


皆が口を揃えて吐き出す一言である。「ヒャアァァァ」や「ヒョォォォ」という声だけもあった。ボクらからはどんな表現がされたのか覚えていないが、同じ種の生物として、同じようなことを発したハズである。
整備場と違ってここは空調設備があり、日が差し込むような窓も見当たらない。薄暗い空間に深海生物の標本などが並んでいた。どうやら展示室に辿り着いたようだ。

しかしここにはお目当てのチムニーや伝説のエビなどが見当たらない。闇に浮かぶのはゴエモンコシオリエビやハオリムシのような比較的見慣れたモノばかりだったが、もっと視野を広げて見渡すと、奥の方で光を漏らした扉が出迎えてるのが分かった。フッ、あそこに伝説の潜行の成果が眠っているに違いあるまい。ワツジさんの「またボクの説明になっちゃいましたねーエヘヘ・・・」という言葉と共に連れられた第一ワツジ班のボクらは、早く見せて見せて見て見て!と意味不明なテンションの上昇プラス、体の中でキューンと上がっていくモノを感じた。


「まず先に第二ミヤモト班から見学を始めます」


驚愕である。
当然のごとく順番というか番号というか、ね?第一の次が第二だよね?数字って確かそうだよね?でもこの世界には第二が第一を追い越すこともあるんだね?

未だかつて、今日ほど班分けの意味について考えさせられた日はあっただろうか。


とにかくミヤモトさん率いる第二ミヤモト班が、扉の奥へと消えていくのを見届けた。しかし第二ミヤモト班が終了するまで時間があるらしいが、ボクにとっては待ち時間になることはなかった。ここには標本やらジオラマやらの遊び道具がたくさんあった。
今年大ブレイクしたダイオウグソクムシもいた。彼はやはり目立つし存在感があり、かわいくもあるのだが、前々から引っ掛かっているモノがあった。彼は伝説の潜行の日、ニコニコ生放送(以下ニコ生)のスタジオにも登場していたが、個人的にJAMSTECとダイオウグソクムシという組み合わせにどうしても違和感があって仕方ない。JAMSTECと言ったら熱水噴出孔、極限環境、起源のようなコアな部分が専門なのだろうというイメージがボクには染み付いているようだ。彼が嫌いなのではなく、むしろ大好きな深海生物の一種だし、独りで深海底にいたり、水槽内で絶食したりで、ある意味での極限環境生物であるのは承知している。ただ彼がこの場にいるのがなんというか ”カオス” なのである。


正位置はこうなのか、ダイオウグソクムシ
正位置はこうなのか、ダイオウグソクムシ

ワツジさんに「なんか違和感あるんですけど...」と聞いてみた。すると「ねー」と言って同意された。ちょっと、え?と思ったが、よくよく話を聞くと、やはりあの鳥羽水族館でのニコ生以来、人気が凄くて仕方なく置いてるようだった。しかし「触ると結構カタイんですよ」と言っているワツジさんは結構ニヤついていた。結構好きなんですね?


「THE JAMSTEC」的なゴエモンコシオリエビ
「THE JAMSTEC」的なゴエモンコシオリエビ

ついでに公式グッズも売られていたので覗いてみると、”非公式Tシャツ” を扱う立場にあるボクらは、やはり公式Tシャツというモノが気になる。デザインの種類も多く、値段も安いので買ってるヒトも結構いる。こりゃ敵わんとか思ってたら、またまたワツジさんがサイドインしてきて、「JAMSTECはグッズで儲けを出しちゃあイケないんですよ」と教えてくれた。なるほど、このどこからともなく現れる感じといい、コメントといい、ニヤニヤといい、この方は「必殺添乗員」としても活躍できそうではないか。
そうこうしてる内にあっという間に奥の部屋からニコニコしながら第二ミヤモト班がモゾモゾ出てきた。
さあ、いよいよか、第一ワツジ班の突入である。




颯爽と門をくぐると、内側からフワァァァ・・・ンとただならぬ空気が流れてきた。


クサい


しかし初めて嗅いだ匂いではなかった。これまでに、新江ノ島水族館での匂い体験コーナーや、生きているかもしれないスケーリーフット特別見学会のスケーリーフット飼育室でも体験したことがあったのだ。しかしそのどれよりも濃く、新鮮さのある匂いだった。現状この匂いが画面から伝えられないのが残念だが、早く Googleさんとかが匂いを発信できる仕組みを開発してくれるといいなあ、と思った。

それと同時についにヤツの姿が目に飛び込んできた。それは入り口に一番近い場所にあったんだ。最も匂いを放っていたヤツなのかもしれない。最も魅力を放っていたヤツなのかもしれない。ボクにとって最も待ち望んでいたヤツだった。


チムニー


居酒屋じゃあないよ。画面を通しはしたが、伝説の潜行時に研究者が「オヒョヒョヒョヒョォォォ!!!」とか言って豪快になぎ倒していた、世界最深部で噴き続ける熱水噴出孔から持ち帰ったチムニーがすぐ指の先にあったんだ。


チムニーズ
チムニーズ

もちろんその辺にあるただの岩っころではない。
コレにリングをつけて指輪にしてもイイぐらいの美しいモノであったが、それは後でまたお伝えする。
ちなみに左の大きいのがデッドチムニーといって、深海底で既に噴くのを止めてしまったチムニーを持ってきたモノで、右のダブルチムニーが元気に活発に噴いていたモノだ。陸上ではどちらも死体ということになるのだろうか。

突然チムニーを鷲掴みにしたワツジさんが、烈火の如く説明を開始した。皆が一斉にその周りを取り囲んで惹きつけられる。しかしこの中で一人だけ話を聞かずに標本の方に惹きつけられて、かがみ込んで写真を撮っている愚か者がいた。


ワツジ添乗員の小指がポイントだ
ワツジ添乗員の小指がポイントだ

代表・・・・・・。
こんなにも素晴らしいチムニー話が並べられてるのに、一人で全然関係ないスケーリーフットの写真を撮りまくっているのだ。そばにあった虫眼鏡まで使いながら手際よく撮っていく。ただのヲタクではないか・・・。「黒スケの錆び具合を撮りたかった」と後に語る代表は、もうここに呼ばれる日は来ないだろう。救いとしてはこの部屋でUSTREAM中継がされてなかったことだろうか。


黒スケーリーフットの錆 撮影:代表
黒スケーリーフットの錆
撮影:代表

これまで度々「伝説のエビ」というフレーズが登場したとは思うが、エビごときの一体なにが伝説なのかという部分に触れておく。伝説の潜行生中継の際に、光ファイバーケーブルが切れて、映像が途絶えた瞬間があった。前にも書いたが、その直前に「しんかい6500」に乗っていた研究者が「ウッヒャアアアァァァ!!!」とか叫びながら巨大なチムニーを倒壊させたのだ。その沈みゆくチムニーにビッシリとへばり付いていたのがこのエビなのである。その後、ケーブルが切れたのはそのエビの呪いだという噂が広がり、そして伝説は創られた。その研究者が呪われたのかどうか、真相は不明だが、あくまでも噂である。この見学会の後に行われたニコ生の「おかエビ~!深海5,000メートルへの挑戦【「しんかい6500」帰国報告 整備場から生中継】」のタイトルにもある「おかエビ~!」という部分もこのエビにちなんだモノである。


伝説のエビ「リミカリス,ハイビサェ」
伝説のエビ「リミカリス,ハイビサェ」

このリミカリス、写真で言うとほっぺたみたいに見える部分の内側に細菌を共生させていて、栄養源はそこからゲットするという、「ほっぺ牧場」の牧場主ということらしい。熱水噴出孔から見たら通常の生態だと思えるが、ボクらのような人間からみたらやっぱり変態である。


ここでボクにとってサプライズが起きた。
チムニーお触りヨシ!持ち上げヨシ!の時間が用意されてたのだ。触れるとは思っていなかったのでこれは叫びたくなるほど嬉しかった。以下はその喜びを表現した「チムニーラッシュ」だが、ぜひ「チム・チム・チェリー」を口ずさみながら見て欲しい。


チムニー
チムチムニー
チムニー
チムチムニー
チムニー
チムチーチェリー
チムニー
チムチムニー
チムニー
チムチムニー
チムニー
チムチーチェルー
チム兄ぃ
チム兄ぃ

チムニーを触る前に、ちょっとした注意事項があり、ヨシザワさんは「放射性物質など含まれているのでね、軍手を着用ください」という。しかしワツジさんは「素手で大丈夫よ、ハハ」という。これは単に性格の違いと言っていいのだろうか。妙にシックリくる感じもあるのだが・・・。戸惑いながらもボクは「放射性物質」というワードにビビってヨシザワさんの前では軍手で触り、ワツジさんの前では素手で触るという全く良く分からない行動に出ていた。

素手で触るとチムニー表面から大粒の砂状のモノがポロポロと落ちていく。手にもたくさんくっ付くぐらいだ。しかしガッシリとした密度の高さも感じられる。そして持ち上げてみると、グッ・・・!重たいではないか。もっと軽いモノだと思い込んでいたが、予想を遥かに超えた重量感だった。とてもリングにしてアクセサリーを気取れるようなレベルではない。ちょっと女子力の高い女子には絶対に不可能だ。代表ですら無理だったと言っていた。
匂いも嗅いで見ると、うん、臭いね。しかしこの部屋に入ってきた時と比べたら全然臭くなかった。今ではすっかり鼻が慣れていたのだ。
一応耳も傾けてみたが、やはり「コォォォォォ・・・」とは聴こえて来なかった。もっと高みにいかなければ聴こえないのだろう。
しかし、ついにチムニーと濃密に絡み合うことができたのだ!(今思えば、手にくっ付いたヤツを持って帰ってしまえばよかったと悔やんでいる)


このような美しい鉱物の塊が、遥か昔から人知れず深海底で創り続けられてきたのか。ボクはなぜこんなモノに惹かれているのか自分でもよく分からないのだが、単に美しいからだけではないような気がする。それが何なのか。これが本当にボクらの生命や魂の源なのであろうか。

永遠のテーマをブラブラとぶら下げながら、第二ミヤモト班はどうだったんだろうと思いつつ、独りトイレ(小)へと走った。



眠い部屋 - しんかい6500特別見学会へつづく...