2013-08-28

最終話 眠い部屋 - しんかい6500特別見学会

臭い部屋 - しんかい6500特別見学会からのつづき...


霧の中に見えたのは、子育てに疲れ果てた主婦が、椅子にもたれ掛かって呆然と天井を見上げるかのように座っている多勢であった。

ボクらは、この日最後の部屋となる、トークセッションの空間に迷い込んだ。そして一番最後にそこに座ることになったのだが、2人並んで座れる席は見当たらなかった。アッチ、ソッチ、コッチ、ドッチ?とまごまごしてたら、暑い部屋で代表をサンプルバスケット内へと促した少し恰幅の良い凄腕風カメラマンが「一つズレますよ」と言って、ニコニコしながらペアになるような席を作ってくれた。ボクがお礼を言うと、カメラマンは左隣から「温めておきました」と要らないギャグを飛ばし、ニヤリと笑った。ボクは苦笑いでそこへ座ると、ムアッという熱気を感じた。不愉快な程にそこは温まっていたが、愛を受け取るからにはボクも痛みを伴うべきだと思い、熱が冷めるのを待った。


ヨシザワさんが、この部屋でこれから行われることの大まかな説明をしている。

カワマさん(異名不明)は、元「しんかい6500」のパイロットで、この場の主役を務める。今日は世界の潜水艇についていろんな話をしてくれるそうだが、すっかりテンションを下げてしまっているしんかいレポーターたちは大丈夫なのだろうかと少し心配していた。


ひたすらしゃべり続けるカワマさん
ひたすらしゃべり続けるカワマさん

話が始まると、皆あらかじめ渡された資料にメモを取り始めた。どうやら心配は無用だったようだと安心したその時だった。となりのカメラマンがガクンと堕ちた。それも自分の腹に頭が付くほどにだ。大事なカメラまで手放そうとしている。さっきまであんなに熱を発してたではないか。そのせいでとうとう干乾びて、クマムシの乾眠状態に入ってしまったのか。だとしたらボクのせいかもしれない。やっぱりさっきのは ”愛” だったんだね!?


その間にも話はどんどん進んで行くが、次第に周りの時間も停止していく。ついにその暗黒のなにかがボクの身にまで襲いかかってきた。

実はこの部屋、展示室(前記「臭い部屋」参照)の一角なのだが、ここから見える風景の中に、カワマさんが話に使用するモニターよりも、遥かに大きなモニターが上方に4画面ぐらいあって、そこには深海生物の映像がゆったりと流れ続けていた。


上方には深海生物が蠢いている
上方には常に深海生物が蠢いている

まずこれが第一の大きなネムリン効果である。
ナマコがゆっくりと身体をクネらせて泳いだり、カニがスローモーションでなにかをついばんでいたり、ナガヅエエソがピタリと静止して長いヒレをユラユラと漂わせている。ボクのほとんどはこれに吸い取られ、ゆったりとした気分に浸り、話に集中することができなかった。

しかしこんなこともあろうかと、ボクらはスマホのボイスレコーダーアプリを使って、終始この様子を録音していた。聞き逃したことがあってもこれさえあれば問題ないのだ。帰宅後にその再生をヘッドホンで聴いてみて分かったんだ。その場では気が付かなかったんだが、本当に僅かな音量でヒーリング的な音楽が流れ続けていたのだ。
間違いない、これが第二の大きなネムリン効果である。

ここでおさらいしてみる。
  1. 涼しい(適温)
  2. 暑い部屋での消耗
  3. 尻が温かい
  4. 隣でクマムシ乾眠
  5. 坦々と進む潜水艇話
  6. ゆったり深海生物鑑賞
  7. 無意識に聴くヒーリングミュージック
これだけ有力な条件が揃う中で、眠くならないヒトがいるわけがない。もしいたらそのヒトは深海生物である。代表もちょくちょくボクに無意味なことを話しかけてきたことを考えると、彼女なりに必死に眠気と闘っていたのだろう。

しかしこれは言い訳に過ぎないので、この場を借りてお詫びします。


カワマさん、すみません


一通り話しが終わったようで、クエッションタイムに突入した。しかし、シーンと静まりかえる中で天に向かう指はない。最初にそれをするにはちょっとした勇気がいるものだ。その空気を察してか、すかさず後方から広報の(キタコレ)ヨシザワさんが質問を投げかけた。さすがだと思いつつ、この時ボクはヨシザワさんの方を見なかったが、絶対にメガネがキランッと光ったハズだと、経験から確信してはいるが、今では見なかったことをとても悔やんでいる。

案の定、皆その後からは手を挙げやすくなったらしく、次々とキノコのようにピョコッ、ピョコンと挙がっていった。2、3本カブるぐらいの勢いであった。ボクも質問しようと思ってたことがたくさんあったのだが、眠気に勝てずに時間が終了してしまった。

手の空いてそうな今日お世話になった方たちに、お礼をしてから部屋を出ようとする時に、ボクがずっと欲していたモノをいただいた。それは伝説の潜航に使われた光ファイバーケーブルの切れ端だった。夕日を浴びながらしみじみそれを見つめると、いろんな想いが甦る。それを深く噛み締めながら、待ってくれている大きな箱に乗り込んだ。
そして降りると同時に、ボクらはCoCo壱番屋へ駆け込んだ。


ボクはこの時まだ知らなかったんだ
このあと密かに待っている
エクストリームな仕打ちがあることを


なにかを届けてくれた線
なにかを届けてくれた一本の線




このような機会を与えてくださったJAMSTECの皆様、並びに関係者の皆様に深く感謝いたします。

とても楽しかったので、今後もなにが成されるのか楽しみにしていますが、今回ボクは主に研究員の和辻さん、宮本さん、川口さんとお話させていただきましたが、あの方たちの持つ魅力的な個性をもっと引き出して、それを引っ掻き回せるようなリーダー的存在があの場にはなかったような気がします。もしおられたら、レポーターのみなさんももっと笑えたり気軽に接したり、そして眠りを妨げられた可能性もあると思います。そしてJAMSTECとボクらの距離ももっと縮んだのかもしれません。これからまったく新しい層の人達を引き込む唯一の手段は、もしかしたらそのようなことなのではないか、そう思いました。


これがボクのたった一つの正直な感想です。
有難う御座いました。




2013-08-27

第五話 臭い部屋 - しんかい6500特別見学会

暑い部屋 後編 - しんかい6500特別見学会からのつづき...


空では太陽と雲がせめぎ合う空中戦が行われる。
しかしこの日に限っては、太陽に挑む相手がどこを探しても見つからなかった。

スイカ割りで割られたスイカのように、二手に分かれたしんかいレポーターたちは、大きな旅行カバンを引っ張りながら歩く海外ツアー御一行のように、添乗員が持つ旗だけを頼りに歩き、何処とも分からない建物の中へと入っていった。


涼しい


皆が口を揃えて吐き出す一言である。「ヒャアァァァ」や「ヒョォォォ」という声だけもあった。ボクらからはどんな表現がされたのか覚えていないが、同じ種の生物として、同じようなことを発したハズである。
整備場と違ってここは空調設備があり、日が差し込むような窓も見当たらない。薄暗い空間に深海生物の標本などが並んでいた。どうやら展示室に辿り着いたようだ。

しかしここにはお目当てのチムニーや伝説のエビなどが見当たらない。闇に浮かぶのはゴエモンコシオリエビやハオリムシのような比較的見慣れたモノばかりだったが、もっと視野を広げて見渡すと、奥の方で光を漏らした扉が出迎えてるのが分かった。フッ、あそこに伝説の潜行の成果が眠っているに違いあるまい。ワツジさんの「またボクの説明になっちゃいましたねーエヘヘ・・・」という言葉と共に連れられた第一ワツジ班のボクらは、早く見せて見せて見て見て!と意味不明なテンションの上昇プラス、体の中でキューンと上がっていくモノを感じた。


「まず先に第二ミヤモト班から見学を始めます」


驚愕である。
当然のごとく順番というか番号というか、ね?第一の次が第二だよね?数字って確かそうだよね?でもこの世界には第二が第一を追い越すこともあるんだね?

未だかつて、今日ほど班分けの意味について考えさせられた日はあっただろうか。


とにかくミヤモトさん率いる第二ミヤモト班が、扉の奥へと消えていくのを見届けた。しかし第二ミヤモト班が終了するまで時間があるらしいが、ボクにとっては待ち時間になることはなかった。ここには標本やらジオラマやらの遊び道具がたくさんあった。
今年大ブレイクしたダイオウグソクムシもいた。彼はやはり目立つし存在感があり、かわいくもあるのだが、前々から引っ掛かっているモノがあった。彼は伝説の潜行の日、ニコニコ生放送(以下ニコ生)のスタジオにも登場していたが、個人的にJAMSTECとダイオウグソクムシという組み合わせにどうしても違和感があって仕方ない。JAMSTECと言ったら熱水噴出孔、極限環境、起源のようなコアな部分が専門なのだろうというイメージがボクには染み付いているようだ。彼が嫌いなのではなく、むしろ大好きな深海生物の一種だし、独りで深海底にいたり、水槽内で絶食したりで、ある意味での極限環境生物であるのは承知している。ただ彼がこの場にいるのがなんというか ”カオス” なのである。


正位置はこうなのか、ダイオウグソクムシ
正位置はこうなのか、ダイオウグソクムシ

ワツジさんに「なんか違和感あるんですけど...」と聞いてみた。すると「ねー」と言って同意された。ちょっと、え?と思ったが、よくよく話を聞くと、やはりあの鳥羽水族館でのニコ生以来、人気が凄くて仕方なく置いてるようだった。しかし「触ると結構カタイんですよ」と言っているワツジさんは結構ニヤついていた。結構好きなんですね?


「THE JAMSTEC」的なゴエモンコシオリエビ
「THE JAMSTEC」的なゴエモンコシオリエビ

ついでに公式グッズも売られていたので覗いてみると、”非公式Tシャツ” を扱う立場にあるボクらは、やはり公式Tシャツというモノが気になる。デザインの種類も多く、値段も安いので買ってるヒトも結構いる。こりゃ敵わんとか思ってたら、またまたワツジさんがサイドインしてきて、「JAMSTECはグッズで儲けを出しちゃあイケないんですよ」と教えてくれた。なるほど、このどこからともなく現れる感じといい、コメントといい、ニヤニヤといい、この方は「必殺添乗員」としても活躍できそうではないか。
そうこうしてる内にあっという間に奥の部屋からニコニコしながら第二ミヤモト班がモゾモゾ出てきた。
さあ、いよいよか、第一ワツジ班の突入である。




颯爽と門をくぐると、内側からフワァァァ・・・ンとただならぬ空気が流れてきた。


クサい


しかし初めて嗅いだ匂いではなかった。これまでに、新江ノ島水族館での匂い体験コーナーや、生きているかもしれないスケーリーフット特別見学会のスケーリーフット飼育室でも体験したことがあったのだ。しかしそのどれよりも濃く、新鮮さのある匂いだった。現状この匂いが画面から伝えられないのが残念だが、早く Googleさんとかが匂いを発信できる仕組みを開発してくれるといいなあ、と思った。

それと同時についにヤツの姿が目に飛び込んできた。それは入り口に一番近い場所にあったんだ。最も匂いを放っていたヤツなのかもしれない。最も魅力を放っていたヤツなのかもしれない。ボクにとって最も待ち望んでいたヤツだった。


チムニー


居酒屋じゃあないよ。画面を通しはしたが、伝説の潜行時に研究者が「オヒョヒョヒョヒョォォォ!!!」とか言って豪快になぎ倒していた、世界最深部で噴き続ける熱水噴出孔から持ち帰ったチムニーがすぐ指の先にあったんだ。


チムニーズ
チムニーズ

もちろんその辺にあるただの岩っころではない。
コレにリングをつけて指輪にしてもイイぐらいの美しいモノであったが、それは後でまたお伝えする。
ちなみに左の大きいのがデッドチムニーといって、深海底で既に噴くのを止めてしまったチムニーを持ってきたモノで、右のダブルチムニーが元気に活発に噴いていたモノだ。陸上ではどちらも死体ということになるのだろうか。

突然チムニーを鷲掴みにしたワツジさんが、烈火の如く説明を開始した。皆が一斉にその周りを取り囲んで惹きつけられる。しかしこの中で一人だけ話を聞かずに標本の方に惹きつけられて、かがみ込んで写真を撮っている愚か者がいた。


ワツジ添乗員の小指がポイントだ
ワツジ添乗員の小指がポイントだ

代表・・・・・・。
こんなにも素晴らしいチムニー話が並べられてるのに、一人で全然関係ないスケーリーフットの写真を撮りまくっているのだ。そばにあった虫眼鏡まで使いながら手際よく撮っていく。ただのヲタクではないか・・・。「黒スケの錆び具合を撮りたかった」と後に語る代表は、もうここに呼ばれる日は来ないだろう。救いとしてはこの部屋でUSTREAM中継がされてなかったことだろうか。


黒スケーリーフットの錆 撮影:代表
黒スケーリーフットの錆
撮影:代表

これまで度々「伝説のエビ」というフレーズが登場したとは思うが、エビごときの一体なにが伝説なのかという部分に触れておく。伝説の潜行生中継の際に、光ファイバーケーブルが切れて、映像が途絶えた瞬間があった。前にも書いたが、その直前に「しんかい6500」に乗っていた研究者が「ウッヒャアアアァァァ!!!」とか叫びながら巨大なチムニーを倒壊させたのだ。その沈みゆくチムニーにビッシリとへばり付いていたのがこのエビなのである。その後、ケーブルが切れたのはそのエビの呪いだという噂が広がり、そして伝説は創られた。その研究者が呪われたのかどうか、真相は不明だが、あくまでも噂である。この見学会の後に行われたニコ生の「おかエビ~!深海5,000メートルへの挑戦【「しんかい6500」帰国報告 整備場から生中継】」のタイトルにもある「おかエビ~!」という部分もこのエビにちなんだモノである。


伝説のエビ「リミカリス,ハイビサェ」
伝説のエビ「リミカリス,ハイビサェ」

このリミカリス、写真で言うとほっぺたみたいに見える部分の内側に細菌を共生させていて、栄養源はそこからゲットするという、「ほっぺ牧場」の牧場主ということらしい。熱水噴出孔から見たら通常の生態だと思えるが、ボクらのような人間からみたらやっぱり変態である。


ここでボクにとってサプライズが起きた。
チムニーお触りヨシ!持ち上げヨシ!の時間が用意されてたのだ。触れるとは思っていなかったのでこれは叫びたくなるほど嬉しかった。以下はその喜びを表現した「チムニーラッシュ」だが、ぜひ「チム・チム・チェリー」を口ずさみながら見て欲しい。


チムニー
チムチムニー
チムニー
チムチムニー
チムニー
チムチーチェリー
チムニー
チムチムニー
チムニー
チムチムニー
チムニー
チムチーチェルー
チム兄ぃ
チム兄ぃ

チムニーを触る前に、ちょっとした注意事項があり、ヨシザワさんは「放射性物質など含まれているのでね、軍手を着用ください」という。しかしワツジさんは「素手で大丈夫よ、ハハ」という。これは単に性格の違いと言っていいのだろうか。妙にシックリくる感じもあるのだが・・・。戸惑いながらもボクは「放射性物質」というワードにビビってヨシザワさんの前では軍手で触り、ワツジさんの前では素手で触るという全く良く分からない行動に出ていた。

素手で触るとチムニー表面から大粒の砂状のモノがポロポロと落ちていく。手にもたくさんくっ付くぐらいだ。しかしガッシリとした密度の高さも感じられる。そして持ち上げてみると、グッ・・・!重たいではないか。もっと軽いモノだと思い込んでいたが、予想を遥かに超えた重量感だった。とてもリングにしてアクセサリーを気取れるようなレベルではない。ちょっと女子力の高い女子には絶対に不可能だ。代表ですら無理だったと言っていた。
匂いも嗅いで見ると、うん、臭いね。しかしこの部屋に入ってきた時と比べたら全然臭くなかった。今ではすっかり鼻が慣れていたのだ。
一応耳も傾けてみたが、やはり「コォォォォォ・・・」とは聴こえて来なかった。もっと高みにいかなければ聴こえないのだろう。
しかし、ついにチムニーと濃密に絡み合うことができたのだ!(今思えば、手にくっ付いたヤツを持って帰ってしまえばよかったと悔やんでいる)


このような美しい鉱物の塊が、遥か昔から人知れず深海底で創り続けられてきたのか。ボクはなぜこんなモノに惹かれているのか自分でもよく分からないのだが、単に美しいからだけではないような気がする。それが何なのか。これが本当にボクらの生命や魂の源なのであろうか。

永遠のテーマをブラブラとぶら下げながら、第二ミヤモト班はどうだったんだろうと思いつつ、独りトイレ(小)へと走った。



眠い部屋 - しんかい6500特別見学会へつづく...

2013-08-26

第四話 暑い部屋 後編 - しんかい6500特別見学会

暑い部屋 前編 - しんかい6500特別見学会からのつづき...


オアシスには、満たされた紙コップが大量に置いてあった。皆がその一点に集まり、次々と杯を乾かしていく。ボクは高速で4回手を伸ばし、麦茶2杯、ポカリ2杯を一気に飲み干すと気分が安らいだ。代表も隣で結構グビグビと飲んでいた(さっきまでボクの水まで飲んでたじゃあないか)。あらかじめ用意されていた非常事態用の椅子に座り、一息ついて辺りを見渡した。


すると、さっきからボクの視界に出入りしていた気になる方たちを見つけたので、この絶好の機会を逃すべく、ご挨拶をしに近づいた。

やはりミヤモトさんとカワグチさんだった。Twitterで度々お世話になったり、顔も写真で知っていたのだが、それ以上にこのお二方はボクにとって、もっと分かりやすい格好をしていた。それは初代「海底紳士スケおじさん」Tシャツ(前記参照)を着ていたからだった。初代というのは伝説の潜行の際に初めて登場したデザインのTシャツのことで、白地に大きな柄がプリントされている。そして現二代目のモノは、黒地に少し小さめの柄のモノである。このお二方が着ているのは、スケおじさんが注目を浴び始めた初期のレアモノなのである。二代目スケTが欲しい方はこちら


スケトリオ
スケトリオ


写真はこの場ではなく後ほど別の部屋にて、代表がミーハーっ気を発揮させて一緒に撮って頂いたモノだが、右の変なメガネのモザイクが入ってるのが代表で、変な顔を隠そうとしたらしいが、変である。左からミヤモトさん、カワグチさんなのだが、知的なオーラを持つ上にガタイが良く、やはり ”船乗り” なのだという雰囲気もあった。現場の研究者の凄みが感じられた。

そして当然のようにこのお二方にも異名があった。ボクが思うに、それらはある裏番長的な存在の方が命名してるような気がしてならないが、まったくもって定かではないのでここでは名前を伏せておこう。その方にとってはもしかしたら、このお二方には異名が付けやすかったのかもしれない。そういうお仲間なのだろうと勝手に思い込んでいる。

まずはミヤモトさんの異名だが、


秘法館系ギボシムシ


なんですかねこれ。
良く分からないが、ギボシムシはミヤモトさんの研究対象であり、画像検索すればどんな姿の生き物なのかぐらいは分かるが、とても卑猥な姿をしている。その卑猥さゆえなのか、それともミヤモトさん自身が卑猥だからなのか、卑猥で有名なアノ博物館の名前と見事に融合されている。(ボクは実際にお会いしたらなんとなく意味が分かったような気がした)


続いてカワグチさんの異名


海洋性ゴリラ(絶倫性ゴリラ?)


これは少し分かりやすいかもしれない。海洋性でも絶倫性でもなんとなく。絶妙な調和からか、親しみやすく自然に受け入れられ、心地よくさえ感じるほどだ。しかしご本人は、カワグッチ(Kawagucci)というのがお気に入りのようだ。ブランドの GUCCI が含まれているからだろうか。「Kawaguchi (not Kawagucci)」とか、論文のようなモノにも英名で書かれてあるのをよく見かける。ちなみにTwitterのアカウント名も「@the_kawagucci」だ。

JAMSTECという組織は未だに謎だらけである。


「しんかい6500」の前方へ移動し、緊張したが「どうも、深海マザーです」と恐る恐る声をかけた。するとボクらのことも既に分かっていたような素振りだったので、そのまますんなりと話し始めることができた。間近で初代スケTをマジマジと見つめると、スケおじさんはかなり色あせて薄くなってはいたが、なにか味や風格のようなモノを感じた。現場での風景を想像しながら、これがあのカリブ海での爪あとなのか、やっぱり本場のスケおじさんは一味違うぜ!と思っていたら、「普段着です」とあっさり言われた。なんと仕事着だけではなく私生活でも着用されていて、これを着て普通に街中でもどこへでも行かれるそうだ。これはボクの立場からしたら衝撃の事実であり、見習うべき事でもあった。

するとカワグチさんが、目の前にあるサンプルバスケット(マニピュレーターで掴んだモノを入れるカゴ)を指差して、「乗っかってもイイですよ?」と普通に言う。ボクらの感覚ではそんなことが許されるとは意外なことだったのでちょっと驚いてしまったが、こんな機会はもうあるまいと、迷わず飛び乗ってマニピュレーターに抱きついてみた。


ボクを研究室に連れてって
ボクを研究室に連れてって

さすがはチタン合金、ヒンヤリしていてこの部屋ではとても気持ちがイイ。なかなかの抱き心地である。このまま深い海へと連れて行ってもらいたいぐらいだ。そのままバックドロップを仕掛けようとしてもビクともしない。腕っぷしの強さも問題なさそうだ。異常なし。しかし実はこの腕、例えばチムニーの隙間などに挟まったりして不意に動けなくなってしまった場合に備え、カニのハサミのように根元から「自切」することができるのだ。そして腕だけを置き去りにし、本体だけは逃げ帰ることができるという、なかなか切ない腕なのである。ちなみにその時にサンプルバスケット内に貴重な深海生物などが入ってたとしても、それをも放り出して帰宅するそうだ。

この様子を見たカワグチさんと、しんかいレポーターの凄腕カメラマン風なおじさんが、「そこで寝てもイイんだよ?」と言って代表を煽ると、彼女は覚醒し、勇んでバスケット内へダイブした。さすがは元ダイビングインストラクターである。その光景はボクにはあの深海の巨大ヨコエビが横たわってるようにしか見えなかったが、代表曰く「採取された深海生物の気分になれて良かったわ」と、満足度はかなり高く、良き思い出になったそうな。


巨大ヨコエビ風な捕まり方
巨大ヨコエビ風な捕まり方


実はこの時、天からの救い(休憩時間)はとっくに終わっており、「しんかい6500」の側面でまたサクライさんが汗を噴出させながら、バラスト(重り)などの説明をしてくれていたのだが、前方にいたボクらの耳には何も入っていなかった。大変申し訳ないことをしてしまったとは思っているが、こちらも楽しかったのだ。ミヤモトさんもカワグチさんも一緒にヘラヘラしていたのだ。


ここでちょっと耐圧殻(球形のコックピット)の中が気になった。覗き窓の外側から内側の様子が小さくチラチラと見えるのだ。そこで恐る恐る首を伸ばして覗き込んでみた。ああ、なんかヒトがいるね、狭そうだね、暑そうだね、深海生物たちからはこう見えているんだねぇ、と思って首を引っ込めた瞬間、「ゴスッ!」と上の方から音がした。それと同時に後頭部に痛みも感じた。なにかと思ったら覗き窓の部分が少しえぐれていて、頭上にぶつけるところがしっかりと用意されていたのだ。誰かに「大丈夫ですか?(笑)」と聞かれたが、余りの恥ずかしさに、大丈夫なのかどうかはよく分からなかったが、とりあえず「大丈夫です」と答えた記憶が微かにある。


前方にはデンジャラスゾーンが存在する
前方にはデンジャラスゾーンが存在する


軽く打っただけで特になんでもないのだが、代表は爆笑し、周囲のヒトまで微妙に笑っているではないか。しかも良くみるとボクから少し距離がある。そうか距離をとったのか。関わりたくないということか。アタマがオカシイと言いたいんだね?アタマを違う意味で心配してるんだね?

別にただアタマをぶつけただけだ。


その場を離れ、独りで船体を眺め歩くことにした(ふて腐れたわけではない)。よく見ると至るところに生々しいキズがあり、どれも重度は違えど、それらはなにかを物語っているように感じた。


キズだらけの後部
キズだらけの後部


たまたま近くをフラフラしていたワツジさんに、これは一体どういうキズアトなのか聞いてみた。すると潜行時に海底に降りた時や、チムニー周辺で微妙な操作をする際に方向転換などでぶつけたりすることがあるという。それによって生まれたキズらしい。そういえば伝説の潜行でも操作に関してそんな声が深海から響き渡っていたなあ、とあの時の興奮を思い出した。しかし脆くて柔らかくてボロボロなイメージのあるチムニーごときでこんなにも傷むものなのか。そんなこと言って、実はまだ公開できない未知の生物に攻撃されたとか、無事故とか言って実際事故だらけだったりとか・・・・・・


ボクらはこの時まだ知らなかったんだ
とても浅はかだったんだ

チムニーという物体を
チムニーという生き物を

知らなすぎたんだ




いよいよ次の部屋には伝説の潜行の際にゲットしたチムニーやあの伝説のエビなどが待っている。ボクはいてもたってもいられず、待ちきれずにあのエビは生きて持って帰って来れたのか、とワツジさんに聞いてみた。


「うん、死んでるよ、でも完全に飼育に専念できてたら生かせたね、エヘヘ」


こ、この自信が「必殺飼育人」の異名を取る所以なのか・・・!!!

ここでようやく、第一ワツジ班と第二ミヤモト班に別れ、真の班分けの意味を知るが、なんてことはないのである。異次元を通過したように、入り口とは違う口からゾロゾロと吐き出されて行く。この頃にはあの強烈な西日も少し笑顔を見せていた。


臭い部屋 - しんかい6500特別見学会へつづく...

2013-08-25

第三話 暑い部屋 前編 - しんかい6500特別見学会

前記、大口部屋 - しんかい6500特別見学会からのつづき...


眩いばかりの「しんかい6500」を目の前にすると、整備場の大口がゆっくりと閉じられた気がした。

もしかして、ボクらが今までに主にインターネットなどで得てきた深海関連の知識というのは、JAMSTECの広報活動によって、間違った味や風味が染み付いたモノであって、それらをこの胃の中でじっくりと時間を掛けて消化(リセット)し、それから完全に新しい香り付けをされて吐き出されるのかもしれない、そう感じた。それならば、これから来るであろう未知の流れに身を任せて流されてしまおうと思った。


この部屋は、サクライさん(異名不明)率いる「しんかい6500」運行チームの巣である。多分、触ってはいけないモノや、行っては行けないトコロがあるのだろうが、この時点では区別がつかなかったので、なんかどうしたら良いのか分からずに、オドオドしてしまって落ち着かない中、ヨシザワさんによるチームの紹介が行われた。

「しんかい6500」運行チームのチームワーク
「しんかい6500」運行チームのチームワーク

一番右の「ぴーちゃん」という異名を持つ方は、パイロットのイケダさん。伝説の潜行の時にも深海へ行った女性だ。静かで大人しいそうだが、このむさくるしい男たちに紛れ込めるような、とてもパワフルなオーラを纏っている印象があった。しかしこの写真だけを見ると、皆好き勝手やっていてバラバラであり、もはやチームとは言い難い。でも実際は見た目よりも遥かに一体感があり「しんかい6500」という ”漢” と共に地球という世界を渡り歩いているとのことだ。


チームの自己紹介みたいなのが一通り終わり、いよいよ「しんかい6500」の整備の話に行きたい所だが、その前にちょっと。実はこの状況は、たくさんのヒトビトに見てもらうために、USTREAMによるインターネットで生中継されるという前提で行われる。ちょうどボクらの真後ろにUSTREAM軍が陣取り、ボクらは常に監視されてるような状態で、文字通りの公開整備が行われるのだ。


USTREAM軍
USTREAM軍

まさに狙い通りである。

この日ボクらは、ある呪われた服を着ている。
それはJAMSTEC ”非公認” キャラクター、


海底紳士スケおじさん
謎の紳士なので詳しくはこちら


JAMSTECには、「しんかい6500」をモデルにした、ロッキーというかわいらしい公式キャラクターがいるのだが、どうやらその内部に、彼を引きずり降ろしてやろうと企む、一部の怪しいグループが存在するようだ。ロッキーに対抗するべく、スケーリーフットをモデルに生まれたキャラクター、それが「海底紳士スケおじさん(アトランティス在住)」なのである。一応は「QUELLE2013のキャラクター」と謳っているハズなので、実際はそんなに黒い企みではないのかもしれないが、いずれにせよボクにとってはあまり触れたくない部分である。

これまでの写真にもたびたび写りこんでしまっているとは思うが、今日は代表と共に、胸元にプリントされたスケおじさんのTシャツを着込んでいる。そしてボクはそれを、前後逆に着てバックプリントを装っているのだ(新作ではない)。ゆえに、ボクの後ろにUSTREAM、そのカメラの先にはスケおじさん、という構図ができると見込んでいたのがうまくハマり、ただ単純にそれが嬉しかったのだ。そしてここで何が言いたいのかと誰かに聞かれたら、なんにもないのである。


サクライさんが口火を切った。お題は「しんかい6500ってこうなってるんだよ」。
ボクは機械おんち、科学おんちなので、元々こういう機械みたいなのの説明みたいなのが耳から入りにくい。しかし、伝説の潜行以来、それまで特に興味のなかった「しんかい6500」だったが、その後まあまあ好きになるという大幅な進化を遂げることができたのだ。でもね?それを踏まえてもね?やっぱりボクの頑固な耳は、ある一定のレベルを超えるとパタンと閉じてしまうことがあるんだよ?


そんな「しんぱいレポーター」のボクが、ようやくレポートをし始める。


「しんかい6500」の前方へと集合がかかると、皆こぞってゾワゾワと移動し始めた。サクライさんによるマニピュレーターのコントローラーの・・・ああ、もうダメ・・・。真面目に言うと、マニピュレーターとはヒトで言うと腕にあたる部分で、その短い腕に7つもの関節を持っている。これを自由自在に動かして、ボクの大好きな深海生物やらチムニーやらをゲットするありがたいモノである。これを動かすためのコントローラーの説明なのだが、やはりそのモノよりも、サクライさんという生物に見入ってしまったのだ。


ドボドボと流れてるように見える汗
ドボドボと流れてるように見える汗

この日、整備場の中はとても暑かった。部屋に閉じ込められたヒトビトは揃って汗をかきながら、ハンカチやタオルで顔を拭っていた。しかしサクライさんから流れる滝のような汗がそれらの比ではないことに、ちょっとだけ笑ってしまった。ちょうど志村けんのコントに出てくるような、カツラの内側からドボドボ流れ出てくる水を、無意味にハンカチで拭きながら、なにかギャクを言っている光景が目に浮かんでしまったのだ。しかし、それが日常、それがどうした!と言わんばかりに、その中で発せられる声にも高温の熱が乗っかってきているように受け取れた。きっと吐息もそうとうな温度だっただろう。この写真には、

「ワタシは、しんかい6500が好きなのよ」

そんな気持ちがほぼ偽りなく表現された一枚だとボクは思っている。もちろんそんな熱さで、そんな声で、そんな話し方で、そんな話題の話をされたら、大抵のモノ好きはそれを自然に受け入れて、溶け込むように真剣に聞いてしまうものであり、実際みんなサクライさんを取り囲んで楽しそうにしている美しい光景を見ることができた。しかしここであるモノに目を奪われた。


ボクは見たんだ
その光の中で淀む
まったく異質の一点の闇を


必殺飼育人ことワツジさんのあさって
必殺飼育人ことワツジさんのあさって

レポーターたちを撮った写真に、たまたまワツジさんが紛れ込んでいたのだ。

「ワタシは、深海生物が好きなのよ」

と言わんばかりに、どこか違う方角を向いて何かを見ているようだ、いや、目を背けていると言った方が正しいのか。とにかく映り込んでいたんだ。それがほぼ偽りなく表現された一枚だとボクは勝手に思っている。しかしながら、まだこれは「必殺飼育人」の異名を取る姿の氷山の一角を見たにすぎなかった。


さて、いよいよこの部屋でのメインエベント「コックピットでいただきます」の時間がきた。これは事前情報にあったことだが、抽選で選ばれたたったの1名が、コックピット内から整備の様子や見学者の○○ヅラを見学できちゃうよ、もしかしたらマニピュレーターでサクライさんを捕まえられるよ、という「しんかい6500」ファンには夢のような企画であったに違いない。

するとヨシザワさんがどこからともなく現れて、「抽選ですが、既に御一方決まっておりますので」と言って、ある少年の名前を告げた。しかしボクはこの瞬間のヨシザワさんの言い方、顔色、態度、声質、メガネの色を見逃さ(せ)なかった。


これは一体どういうことなんだ
抽選が無かったとは言ってません


抽選はいつなのだ、それはどんな形式なのだ、自分が当たるに決まってる、あんたら辞退しろ、とかいった思いを封印しながら待ち望んでいたハズだ。さらにはこの「しんかい6500特別見学会」の選別前にも、ボクはマリンスノー(前記参照)の中でこのような希望を多数目撃していた。それに加え、絵に描いたように「子供が選ばれた」ということで、一気にこの部屋は闇に包まれたような気がした。


ここにいるのは大人であって大人ではない
ここにいるのは子供であって子供ではない


ボクはやはり童心のある大人の方が好きだ。しかし子供を蹴落とすような大人は好きではない。素朴で素直な子供が好きだ。しかし嫌に大人っぽい子供は好きではない。難しい問題だが、多かれ少なかれこういった葛藤が、この場にいる大人にも子供の方にもあったハズなのだ。

シモカワ少年が、その葛藤に満ちた海を下目に、冷たい金属の階段をゆっくりと一歩、また一歩と上がっていく。どんな想いで上っているのか。それは希望へなのか、絶望へなのか、分からないまま登頂し、先の見えないコックピット入り口の扉が開かれ、深い穴へ落ちていった。

個人的に、結果的には子供が選ばれて大変良かったと思う。


シモカワ少年をぴーちゃんが優しく導く
シモカワ少年をぴーちゃんが優しく導く

しばらくの間コックピット内から、マニピュレーターウネウネやライトのパチクリ操作、超イイカメラ自慢などが行われていた。みんなウヒャウヒャ、ヒョヒョヒョ、と楽しんでいたのだが、ここで密かにボクらをジワジワと追い込み続けていたある ”危機” が訪れた。


水がない


部屋は暑くなることが予測されるのでそのへん夜露死苦ぅ、と事前情報があった。そしてその通りの暑さだった。いや、ちゃんと750ミリリットルの大きめのペットボトルに水を入れて持参したのだが、これをボクと代表で共有していたため、既にオッパマの時点で半分ぐらいは飲み干していた。それを知りつつも底が尽きるのを恐れ、チビチビと口を濡らす程度で命を繋いでいたのだ。


上方から強烈に差し込む西日

消耗した最大の原因は、「しんかい6500」上方にある窓から照りつける日焼けさせるほどのパワーを持つ西日にあった。これがちょうど見学中のボクらに降り注ぐのだ。見てるだけだとさぞ美しく見えることだろう。美しいモノにはトゲがある、っていうのはここではイイんだよ?

汗が頬を這って落ちていくのが認識できるが、いくら確認しても補給できる残りの水は僅かであった。しかも今日に限って普段あまり水を飲まない代表が横でガブガブ飲んでいるではないか。これは敢えてやっていることなのか、エネルギー残量を気にしているようには見えない・・・ヤバイ。


もうダメだ・・・
意識が遠くなる・・・

ボクはここで逝くのか
それも悪くないな・・・
深海好きだしな・・・

よこすかしんかい・・・

ああ、ここは深海底か・・・
母船がなにか言ってるな・・・
しんかい了解

しんかいよこすか・・・
こちらバラスト投下できず
ドーゾ・・・?



「ではここで、2、3分の強制休憩を命じます」
「ではここで、2、3分の強制休憩を命じます」
「ではここで、2、3分の強制休憩を命じます」
「ではここで、2、3分の強制休憩を命じます」
「ではここで、2、3分の強制休憩を命じます」
「お飲み物も用意してありますので」
「お飲み物も用意してありますので」
「お飲み物も用意してありますので」
「お飲み物も用意してありますので」
「お飲み物も用意してありますので」



ぼんやりと見えたんだ

太陽から逃げられない雲の上で
それを永遠と浴び続ける蓮の上で

黄金にキラめいていたんだ
ヨシザワさんのあのメガネが



暑い部屋 後編 - しんかい6500特別見学会へつづく...

2013-08-23

第二話 大口部屋 - しんかい6500特別見学会

前記、集合部屋 - しんかい6500特別見学会からのつづき...


頭を上げて窓の外を見ると、入り口の警備員がボクらに向かって敬礼していた。前方には、荒れた海面が太陽を乱反射させ、歓迎しているのか、拒絶しているのか、ボクには分からない表情を見せながら光輝いていた。

ボクは法を侵してなどいない。何も悪いことはしていないんだ、という強い想いが届いたのか、風が目的地へと運んでくれたようだ。(怯える理由が分からない)


JAMSTEC横須賀本部、潜入成功。


バスを降りると、皆がまずそこに広がる海を眺める。理由など何もない。ただそこに海があるのだ。その行動から、乗っていたのは全員同じ種の生き物だということを確認し、自然に出来た列が続く先へと歩き出した。

手前の巨大な黒い爆弾みたいなのが気になる
手前の巨大な黒い爆弾みたいなのが気になる

集合場所に集められ、ヨシザワさんからごあいさつや今日の予定などを聞かされていた。若い女性や子供たち、おじさんから取材陣まで、いろんな小豆が選別されたんだなあと、キョロキョロしてたらあるヒトと目が合った。

ワツジさんがボクと代表を見てニヤニヤしているではないか。

集合の地
集合の地

ボクらは、約4ヶ月前にもこの地に来ていた。やはりQUELLE2013絡みのイベントで、インド洋の航海後に生きているかもしれないスケーリーフット特別見学会という緊急イベント告知が発令された。スケーリーフットっていうのは後のレポートでも登場するかもしれないが、鉄で創られた鎧のような鱗を持つことで、自分の弱みを見せまいと引き篭もる、深海でも本当に珍しいかもしれない巻貝のことである。

珍しいとはいえ一体何が緊急だったのか。実は水揚げした後に生存させるのが大変難しいらしい。鉄なので錆びてしまったりもするのだ。そんな生き物を「日本まで生かして持って来たんやから見に来いや、さっさとしないと死んでまうで」ということでのレアイベントだった。

この時のスケーリーフットの飼育に関わったのが、このワツジさんである。そしてこの方には異名がある(JAMSTECの方には大抵異名がある気がするが)。


必殺飼育人


ただの「必殺仕事人」のモジリじゃあないか。
”必殺” とか言っちゃって、飼育どころか殺しちゃってるじゃん。


この時ボクらはまだ知らなかったんだ
その異名が持つ真の姿を


そのイベントに参加させていただいたので、JAMSTECに潜入したのは今年に入って2回目となり、これで人生の「JAMSCHECK(ジャムスチェック)」も ”2” がカウントされた(ちょっとキタコレ)。ボクは一般公開には参加したことがないので、きっとみなさんはもっと高い数字が刻まれているのだと思う。ワツジさんにはその時に一度しかお会いしていないにも関わらず、ボクらの事を覚えていてくれたというのが分かって、同じようにニヤニヤし始めた。挨拶を交わすとすぐに「ちょっと運がよすぎるんじゃない?エへへ...」と言われ、すぐにその意味を理解して今を深く噛み締めた。

実は今イベントに関しては、「運」の要素は強いのかもしれないが、前イベントの時は完全に早いモノ勝ちの先着順であった。2日間に分けての合計60名の席が、平日にも関わらずにアッという間に埋まったのだ。要するに、「会社をすぐに休める」、「仕事をしていない」、「引き篭もり」、「社会に必要とされてない」、「クズ」など(全部同じように見えるが)の条件がクリア出来ていないと参加するのは困難を極めた。参加できたヒトビトは大いに喜んだことであろうが、単に「社会のクズランキング60」にランクインされただけのことである。そのことをワツジさんは承知の上で、ヘラヘラとしていたのだろうか・・・・・・。

このようなことは後日、「深海アトランティス連邦大統領首席補佐官のケン・タッカイ氏」が実際に感じたとされることを、全国民へ向けて演説されていたので周知の事実である。この異名(というか自称みたいなの)を持つ方についてはまた後で書くかもしれない


集合の地から、目的地「しんかい6500」の整備場まで、港沿いの真っ直ぐな道を少し歩くようだ。すると、どなたかが、一緒に付き添ってくれながら色々と話を聞かせてくれた。「この真っ直ぐな道はねぇ、昔は滑走路だったんだよぉ」。それを聞いた瞬間、突然上空が気になって前後の空を素早く見渡し、「ふぅ、飛行機ヨシ...」と安心した。飛んでくるわけがなかろう。飛んでくるとしたら代表から繰り出されるヘビのようにしなるタイキックぐらいだろう。意味もなく蹴りを喰らうのがボクの日常なのである。

するとここで周囲の空気が変わった。ついに ”ソコ” が見えてきたらしい。御一行のテンションが一気に上がり始め、熱を発してくるのを感じる。もちろん表にある「しんかい6500」のレプリカに対してではない(これはあちこちで展示されてるレプリカよりも遥かにレプリカらしいレプリカで、たぶん本物と間違えた奇特なヒトはいなかっただろう)。その奥にある建物がオオグチボヤ、いや、フクロウナギ、いやいや、メガマウスのように巨大な口を開けて待っているからに他ならなかった。

「しんかい6500」整備場の前にある寂しそうなレプリカ
「しんかい6500」整備場の前にある寂しそうなレプリカ

ボクらと大口の距離が縮まるに連れて、興奮と緊張が増してくる。全員の全神経が、あの未知の領域、先の見えない暗黒の大口の中に集中している。

うおおおぉぉぉぁぁぁ・・・・・・!!!
す、吸い込まれる・・・・・・!
あの中はなにかヤバイ・・・なにか次元が違っているぞ・・・!
ねぇねぇ、サクラエビじゃあないんだよ?

見ろ!ヒトがエビのようだ!!
見ろ!ヒトがエビのようだ!!





普段よりも見えにくかったんだ

急に暗い所へ入ったからではない
眩しかったわけでもない

その存在が大きすぎたのか
遠すぎる存在だったのか

ただハッキリと見えたのは

あらゆる極限を超え続けてきた姿
己との闘いに勝利し続けてきた姿

深くて生々しい傷を負い
万人からの愛を受け入れる

”漢” がそこにはいたんだ



しんかい6500


暑い部屋 前編 - しんかい6500特別見学会へつづく...

2013-08-21

第一話 集合部屋 - しんかい6500特別見学会

「言葉」というモノが不便だと思うことがある。
感じていることを口に出す時に、どれにも当てはまらなくて気持ち悪い思いをするんだ。

例えば、こんな暑さの日々のこと。


この夏、ボクと代表(現深海マザー代表)の小さな店が、信じられないことに忙しい。忙しいが儲からない。儲からないがおもしろい。おもしろい、が、生き甲斐です(なんですかこれ)。

いつものように雑務に追われる中、海が知りたい、地球が知りたい、宇宙も知りたい、という ”超好奇心変隊” と呼んでみたいぐらいの組織、海洋研究開発機構(JAMSTEC)からある企画を知らされる。


しんかい6500特別見学会
その内ページが消えてしまうかもしれないけど詳しくはこちら


実はこのJAMSTEC、今年の頭から地球を航海している。「しんかい6500」という、暗黒の深海へヒトを連れてってくれるという夢のような乗り物を乗せて、「よこすか」っていう船が世界中の深海の表面を暴走しているのだ。この親子のようなお二方の果てしない旅をQUELLE2013というらしい。

ちょっとその ”QUELLE(クヴェレ)” という名前にも触れてみたい。

Quest for Limit of Life, 2013


これは公式ページから引用したモノだが、青字の部分から取ったモノで、ドイツ語で「起源」とか「源泉」といった意味になるそうだ。まさに生命の起源を探るという旅に相応しい名前になったのだ。この名付け親はたしか研究者のどなたかだったと思うが、もう羨ましいぐらいの「キタコレ!」だったに違いない。魂が奮えるほどのエネルギーがその瞬間に放出されただろう。ボクなら間違いなく瞬時に Twitter でハッシュタグ #キタコレ を付けてツイートしてるに違いない。

その航海中、あの ”伝説” が創られた。


深海5000メートルへの挑戦
これもその内ページが消えてしまうかもしれないけど詳しくはこちら


カリブ海上で、まずはヒト科3名を「しんかい6500」に閉じ込める。そしてそのまま「よこすか」から海へドボンと落とす。事前に取り付けた直径1ミリの極細光ファイバーケーブルを引っ張って、世界最深とも言われる熱水噴出孔(深海5000メートル)まで沈み、ニコニコ生放送を通じて陸の世界へ興奮や感動、熱気、さらには失敗した時の残念感までをも届けようという画期的な試みであった。結果は途中で光ファイバーが切れたものの、見事に深海の景色が映し出された。この企画を知った時も、実際に観た時も、自分の中のなにかが反応したような気がした。この日はちょうどボクがこの世の空気に初めて触れた日でもあったので、赤子に戻るつもりでオムツを履いて観戦したのを今でもハッキリと覚えている(実は事前情報でパイロット達が潜る時はオムツを履くと言ってたので、一体感を楽しむために履いたんだが、中継では3人共履いてなかったという裏切り行為があった)。

そしてこの度「よこすか」と「しんかい6500」が、カリブでの海賊行為を無事終えて、日本へ帰ってきた。そこでそのナマナマしい「しんかい6500」のナマ整備やカリブの深海から持ち帰ったナマなにかを、ボクらのような社会に出ても全く役に立たなそうなヒトにでも見せてくれるという一大イベント。それが「しんかい6500特別見学会」。

ここで「ただし!」とJAMSTEC広報課が斬る。「見せてもイイけどね?ちゃんと落とし前はつけてもらうよ?」と。要するに現場で見て聞いて感じて思ったことなどをいろんな層のヒトビトに向けて何らかの形で発信し、キャッチしたら最後、二度と戻れない暗黒の深海世界へ引きずり込めるようなことを書け、という指令があるのだ。従えなければ見学はできない、応募もするな、今後一切「深海」という言葉を発してはならない(そこまでは言っていない)らしい。まあ、ブログやSNSを持っていれば誰でも応募できたハズなので、多くのヒトは条件だけはクリアできてたと思う。

これを聞いた「深海クラスタ(蠢く深海ファンの集合体)」、ボクは単純に「深海クラス」と呼んでいるが、飢餓状態の深海魚のようにこのイベントに喰らいついたハズ。そしてこの「深海クラス」、ボクの知る限りで言わせてもらうと、深海の素晴らしさを伝えようなんて考えが極限までに薄いのだ。それどころか、なるべく情報を隠蔽し密かに自分が楽しみたい、イベントが混んでいるからブームなんか早く去ってくれ!みたいな考え方なのだ!エサに喰らいついただけなのだ!(もちろん違うヒトもいる)

ボクらもその内の2名である。

きっと広報課内では、”蠢く蟲” の中から小豆を選別するかのように「これダメ。あぁ、ダメ。おぉ、イイ。おぉほぉぉぉ!」みたいに地道な作業が行われたに違いない。選別の基準がどういうモノだったのかは未だに不明なのだが、ザルに残った僅か30名は「しんかいレポーター」という称号を与えられた。後で聞いた話だと倍率10倍以上、ということは300名以上の応募があったとみられる。どうりで周りの深海クラスのヒトたちがマリンスノーのように大量に沈んでいく訳だ。


ボクらは選別された。
しかし、マリンスノーを見ていたら、口に出せなくなってしまったんだ。
しばらくの間。
呆然と過ごし、複雑な思いを抱えながら当日を迎える。


その日、特に寝坊もアクシデントもなかったのだが、寝る前に食べた5本のカルピスバー(アイス)が祟り、朝起きて鏡を見てれば顔が歪んでいただろう。美しきゲリラスタートである。

JAMSTECの最寄り駅である、京急追浜(オッパマ)駅が集合部屋だった。ここに集まれば無料送迎バスがJAMSTECまで乗せてってくれると聞かされていた。その時間よりも1時間ほど早めに着いたので、駅前のマクドナルド(オッパマック)に入り、クーポンの値段に従ってポテトとバニラシェイクを頼んだ。しかし、シェイクはドロドロ胃に飲み込まれていくが、ポテトは喉すら通らない。どういうわけか猛烈に緊張しているようだ。連れの代表もそんな風に見えた。後に友人から「なんで緊張してたんすか(笑)」と問われたが、なぜだか分からずに答えられなかった。ナゼナ?

この日ボクは、人生で初めてマックフライポテトを残して捨てたんだ。

緊張という魔物に支配された空間に取り残されたボク
緊張という魔物に支配された空間に取り残されたボク

いよいよ約束の地、追浜駅ロータリーへ向かう。すると遠くからだが、なにかに群がるようにワシャワシャと人だかりが出来ているのが見えた。アソコから何か湧き出しているんだな。ボクらも同じように群れに紛れ込めば生きていけるのだろうと思ってそこへ溶け込んだ。

近くに行くと案の定、すぐに広報課のヨシザワさんが見えた。前述の生中継の際に、現地のレポーターを勤めていた方だったので、ハッキリと顔を覚えているのだ。そして不自然に紛れ込んでしまった代表がウチワで扇いでいるのが、素晴らしく不自然だ。

広報課ヨシザワさん、代表、しんかいレポーター群集
広報課ヨシザワさん、代表、しんかいレポーター群集

写真のみなさんが持っているウチワやネックストラップが気になる。そう、すべてこの場で配布されたモノなのだ!これと他にQUELLE2013のペンと合わせて3点セットだった。この時点で満足したヒトもいたかもしれない。

しんかいレポーターグッズ満載

受け付けを済ませると、ヨシザワさんに「あなたたちは第一班です」と言われた。第二班まであるらしいが、グッズを与えられてウヒャウヒャ浮かれるボクらをよそ目に、ヨシザワさんのメガネが強烈な日差しを受けてキラリと光ったように見えた。


ボクらはこの時まだ知らなかったんだ。
この班分けの本当の意味を。


出発命令が下り少し移動すると、行き先に「海洋研究開発機構」と表示されたバスと、なぜかその隣にパトカーが停まっている。なぜここにパトカーが・・・と思うか思わないかぐらいのところで、代表が「あんたはコッチでしょ」とパトカーの方に乗れと促した。まあ、これはいつものことなので無視してバスに乗り込んだ。

「海洋研究開発機構」行きバス内
「海洋研究開発機構」行きバス内

席に座り、座席から辺りを見渡した瞬間、あることに気がついてハッとした。

まさか・・・これは・・・!!
第一班はバス、第二班はパトカーに乗せられて、最寄の警察署まで連行するつもりか・・・!?まさか、そういう班分けだったのか!

どういう訳か、ボクは護送車に乗せられた気分になっていたのだ。今ごろ行き先の表示もネコバスのようにグリンッと「警察署」に変わっているに違いない。第二班のあのパトカーが先導してこの護送車を誘導し、着いた先で皆裁かれるのだ・・・みたいな妄想がハリセンボンのように膨らんだ。


ボクらはこの時パーフェクトに間違っていたんだ。
班分けの本当の意味を。


ふと気づくと、緊張の魔物からは開放されていた。
バスは通常通り、波のうねりのように大きく揺れながら、JAMSTEC横須賀本部へと出発した。


大口部屋 - しんかい6500特別見学会へつづく...