2016-11-01

サイエンスは最高のエンターテイメントやDay!潜入記

「高井さんしゃべるんだって」と、リサは前日になってから母のジュンコに教えた。終わってから言うつもりだったらしいが、家を空けるので言わないわけにはいかない。ジュンコはカレンダーの予定をチェックし始めた。遠目から見ると「犬のシャンプー」ぐらいしか書かれていないように見えるが、ジュンコはもじもじしながらも行くと言う。「だって席埋まらないと高井さんかわいそうじゃない」って、要らなすぎる心配キタコレ。

日本微生物生態学会が開催されます

こんなふうに聞くと、ボクの耳は耳の穴の中に逃げていく。でも「市民講演会もあるお!」と聞くと片耳がパッと咲き、「サイエンスは最高のエンターテイメントや!!」と聞けばもう一方もポンッと開くので大丈夫。ジュンコはまっくろくろすけを見つけたメイちゃんみたいになるので大丈夫。リサはいつもと変わらない・・・みたいだけど大丈夫。敷居が下がると俄然ヤル気が出てくるものである。なんのヤル気かわからないが。


こちらがイベントの裏ポスター 告知サイトに行くと裏なのに全面に浮いてくる サイエンスは最高のエンターテイメントやDay!
こちらがイベントの裏ポスター
告知サイトに行くと裏なのに全面に浮いてくる
サイエンスは最高のエンターテイメントやDay!


場所は横須賀市文化会館というところ。神奈川県の横須賀市。そう、そうなんです、黒塗りの船でマシュー・ペリーがやってきたところなんです。ポスターを見ても横須賀とペリーらしき人物が関連付けられてるように見えるし雰囲気も幕末っぽい。2人はけっこう知ってると言いながらしきりに「どぶ板通り」を連呼している。しかしよく話を聞いても昔どぶ板通りで何があったのか結局わからなかったが、ボクにとってはあんまり馴染みのない土地で、古今東西ヨコスカ・・・カレー、スカジャン、ジャムステック・・・うぅ・・・もうダメだ・・・ぐらいの貧弱さだ。それにしてもE.T.ではなく、横須賀と人類がトモダチ・・・という図はいったいどういうことなのだろうか。ハンバーガーのようなUFOはなんなのか。時代の違う方はなんなのか・・・考えてもわからないのでとにかく行ってみることにした。


ポスターと地図は昨夜のうちに念写したのだが、車で横須賀市内に潜入してから途中で変なY字路に出くわしてしまい、ドースル・・・ドースル・・・と迷ってるうちに真ん中のとんがった斜線のとこで止まってしまった。あーいるいるこういう優柔不断な人・・・。いつの時代のカーナビだよっていうぐらい古いナビに寄生してる女性コンシェルジュのパナ子は、若い声で「ソノ先、左方向デス」と簡単に言う。いつまでお若いの?と言っても応答はない。リサは「右じゃね?」とまったくナビを信用してない。手にはスマホを握っているくせ最新のナビアプリを立ち上げて助手を勤めてくれるわけでもなくただ、「右じゃね?」と言っている。板挟みにされたボクはついに女性不信に陥り、極限状態から幻聴が聞こえ始めた。


(外せ)
 (左だ)(外せ)
 (外せ)     ゲイだ
   (イヤ右だ)
    (外せ)
(どっちかな)ゲイになれ
(外せ) ゲイしかない   
   (外せ)


外せってなんだよ・・・この高架からOBしろというのか・・・でもなんか周波数の違う幻聴も聞こえるような気もするな・・・まあいいか、どっちにしろ幻聴だし・・・。バックミラーを見てもサイドミラーを見ても、後続車が左右に揺れてプレッシャーをかけているようにしか見えない。とうとう耐えきれなくなったボクは、もうどうにでもなーれと無意識にハンドルを右へ切っていた。「あーあ、やっちゃったよ」と聞こえてビクッっとなるも、もうアクセルを踏むしかなくなっていた。
しばらく走ると、なんだか見覚えのある景色が見えてきた。あれ、おかしいな、横須賀なんて知らないと思ってたけどなんかこの道知ってるな。もしかして前世の記憶?これってデジャヴ?とか思ってたら、先日亡くなられた有麒堂さんの葬儀場の看板が見えてきた。ここだったかぁ・・・しかし、ボクの記憶が確かなら葬儀には参列していないはずだ・・・・・・ビー!ビー!ビー!突然ボクのセンサーがナニかに反応して警報を鳴らし始めた。こ、ここは・・・トモコ大叔母の邸宅・・・!
トモコはリサの大叔母でありジュンコの叔母である。書道、華道、絵画、料理、教員などなど経てきたいわゆる昔の厳格な人で、ボクのことなんて、え、なに?クリエイター?プリエイター(プリティの意)の間違いじゃないの?みたいな酷い扱いをするのだ。以前、リサにハメられてこの家でお作法という名の拷問を長々と受けたトラウマがあって二度と近づきたくない家だった。リサのヤツ、またハメようとしたな・・・。おまえのやったことは全部お見通しだ!その手には乗らぬとスピードを上げたが、後部座席から「帰りに寄るわね~」というToトモコFromジュンコの電話の声が聞こえてきて、教習所で教わった通り、両手でハンドルを10時10分の方向に握り直した。


第一部 市民講演会「大きな海と小さい微生物がくり広げる生態系の話」

聞けませんでした



第二部 「サイエンスエンターテイメントショー」

それにしてもこの辺りはなんて道なんだ。どう見ても人が作った道じゃない、というか森に迷い込んだ人が彷徨いながら歩いた跡を舗装したような、カクカクグネグネとまったく規則性が見えない。森でなければ、ここを歩いた人はなにかアブナイ物でもやっていたのではないかと思うぐらい本当に走りにくい。でも無駄のない道を作るといわれるあの粘菌の道にも似ているな。ということはこれは最短ルートなのだろうか、などと思いながら大きな坂を上がっていると、ポコっと横須賀市文化会館が現れた。けっこう寂れた建物で周りには何もない。へー、丘の上のマチュピチュか、なんかイイ雰囲気だな、麓でコカの葉を買うのを忘れたお、と駐車場に車を停めた。すごく良心的な料金で、これなら都心のコインパーキングのように10分単位で寿命を縮める心配もなさそうだ。

アトラ・・・じゃなくて館に入ってみると、ホールの外には受付の人が数名いるぐらいだった。まだ中で第一部が進行してるようだ。いま入っても中途半端な時間帯だったので、ちょっと一人で探検をとその辺フラフラしてから戻ってみると、「なんでいつも肝心な時にいなくなるんだよ!」とリサがキレていた。ボクがどっか行ってる間に第一部が終了し、リサは休憩時間にホールから出てきたレディース深海クラスとディープ・ハグを交わしていたらしい。中にはフルデプス・ハグをした人もいたそうだ。それにしても、遠目から見るとPTAの黒いママ友グループに見えるな・・・子供たちは教室の中かな・・・違った、彼女たちが生徒だった・・・。さっき肝心な時に!と怒られたのはなんだったのか。まさかボクもハグしなきゃいけなかったってことか、いやそれは実に刑事的問題であろう・・・。
その近くにすごく知っている顔を見つけた。ゴエモンコシオリエビ研究者(アトランティス国立中学校2年深海クラス担任)のワツジさんが一人ポツンと立っていたのだ。なんだか意外にも思えたが、ゴエモンだって微生物あっての胸毛牧場だ。胸毛牧場あってのゴエモンだ。ゴエモンだってワツジさんだ(?)。微生物の会にいてなにが意外なものか。久しぶりの再会に近況報告などを交わすと、リサは「ワツジさん指揮者になればいいのに」と言い出した。絶対音感を持つワツジさんはオーケストラで指揮棒を振っていたという噂は聞いている。「いやいやあれはアマチュアですから笑」と否定すると、さらに「プロになれますよ」とまるで根拠もなく被せてくる。謎の強要をされ続けるワツジさんはいつの間にか消えてしまっていた。そしていよいよ第二部が始まろうとしている。


このときぜんぜん知らなかったんだ
さらにしゃべれなくなっていたボクは
いたの?と言われるぐらい
存在していなかったことを

» アトランティス国立中学校や深海クラスについてはこちらが詳しいです(深海ラボカフェの記事)


ここは1000人以上もの深海クラスを収容できる大ホール。おそらくは、その10分の1・・・いやほんの100分の1程度だろう・・・と思われる深海クラスの人たちと、科学のおもしろさをほんの少しでも理解したいと願うたくさんの横須賀市民が遊びにくるのだろうから、東京モンが、しかも途中からなんて座れるのだろうかと心配だった。実際に見渡してみると、なんだかクロスワードパズルの黒いマス程度にしか埋まってない。さっきホールの外でスカジャンの広告を見たからか、リサは「ヨコスカだけにスカスカジャン!」と偉そうに最前列のド真ん中に着席した。ジュンコも「ダメよこんなとこ」と言いながらも座席を起こした。近くの席を眺めると、さっきのママ友グループの人たちがほんの気持ち程度に何席か間隔を空けて黒くマスを埋めている。このマスの並び具合がなんとも特徴的で、不思議と心が落ち着いてくるような気がしてくる。ボクらは本当は席なんてどこでもよかったのだが、たまたまママ友の1人が誘導してくれたということもあってこんな形になってしまったが、このド真ん中って誘導してくれた張本人(おち研代表戸締役所長)の特等指定席だったのではないかと思って後で反省することになる。


未知のヨコスカとの遭遇

花田智さんが脚本した「劇団フォーシーズンズ(シロート)」によるコントで開宴した。第一部を飛ばした影響で場の空気に馴染めてなかったせいか、いきなり高井さんのニセモノ(以下ニセ・タッカイ)が本人と同じ深紅のジャケットを纏った格好で登場して衝撃を受けることとなった。
実は最初の0.01秒ぐらいまでのヴィジョンでは、高井さんが膝立ちになった体勢で膝に靴を履いてヨチヨチ歩いてきたのかと思った(なんて誰にも言えない)。0.1秒後にもなれば、なんだニセモノかと判断できるようになるが、10秒後になると、ナニコレヒドイと感じるようになる。しかし10分後にもなると、若干似てるんじゃないかといった幻覚を見るようになり、もう30分後になってしまうと、拍手を送ってしまうような奇怪な行動に出るようになる。しかし途中でご本人がチラチラと出演するせいで、末期になると、ニセ・タッカイの影はかなり薄く見えるようになり、家族が呼ばれる頃には、ホールの外で出待ちをするようになり、ボク・・・トモダチ・・・と人差し指を合わせてもらおうとするようになる。これは、処方箋の存在しない地球外の病なのだ。
脚本の花田さんと、こちらのニセ・タッカイ、それから女優2名が演じるフォーシーズンズのコントを挟みながら、後に続くスターダストクルセイダースの各ご講演が紹介されながら続く、壮大でエクストリームな宇宙の物語である。


三浦半島を形作る地球の営みを知ることで日本が、地球が、見える見える

れでぃーすえーんじぇんとるめーん。いよいよ待ちに待った個人的メインイベントである。JAMSTECの平朝彦理事長(アトランティス国立中学校校長)が両手を大きく振って登場した。あら素敵・・・超タイプだわ・・・(ゲイになりかけてる)。スクリーン上でドローンを遠隔操作している(つもり)時も、「はいターン、はいそこでターン、シャルウィダンス?」といまにもダンスに誘われてしまいそうな素敵さだ。しかしそれもPCトラブルにより一転してしまう。理事長があれ?あれ?ってやっても目当てのものがちっともスクリーンに出てきてくれないのだ。客席からは、(たすけて・・・誰か・・・誰かたすけてあげて・・・あらやだ・・・)と心の中で口を揃えて言っている。も、もう限界だ・・・ボクが・・・ボクが行きます・・・!すると、静まり返るホールの中心で、突如としてそれは叫ばれたんだ。

あいにーじょーへるぷ!
ちょっと、あいにーじょーへるぷ!

wwwwwwwww。リサはブフッと必死に笑いをこらえている。あまりの異世界観におそらくたぶんみんな吹いていただろう。けっきょく高井さんが最後の最後に現れて事態を収拾してくれるのだが、理事長はその高井さんにすべての責任を押し付けてルンルンしながら大物感を漂わせていた。何が起ころうと素敵だったのだ。それにしても、なぜ隣に座ってるジュンコまでルンルンしているのか。まさかとうとう理事長にまでアレなのか・・・。
話を真剣に聞きすぎたボクとジュンコはずっと、「城ヶ島」を「城ヶ崎」と間違えて伊豆半島の崖っぷちにいたらしい。後で脳にダメージがあるはずのリサに、「キミら、脳死だな」と言われて身投げするのだった。


君はペリーが見た史上最強の東京湾とその生態系を知っているか

港湾空港技術研究所の桑江朝比呂さんは、東京湾の水は綺麗なのか、そもそも綺麗とはなんなのかというお話だった。講演タイトルは無理矢理に高井さんに決められたそうだが、「ポン酢(史上最強)のポン(強)がなんなのかわからない限り、素直に従うわけにはいきません」となにやら穏やかでない。聞いていると、どうも過去にいろいろあったようで、「私は研究費をたったの2割しかもらえなかったのに対し、高井さんは満額!ワタシの5倍ですよ5倍!許すまじ!雑コラにしやがって!(最後のはイメージです)」と桑江さんは被害者的な振る舞いを見せながらもなんだかんだ嬉しそうに見える。そうか、この人もたぶんド●な方なのだね・・・トモダチ・・・?と親近感を覚えるも、話を聞けば聞くほど高井さんが極悪な人に思えてくる不思議。しかしそれと同時にいろんな意味でのスゴさが見えてくるのだった。


横須賀から世界の、地球外の、海と生命を求めて

大会総合プロデューサーでもある高井研さん(アトランティス国立中学校2年教育指導員)は、いつものように地球外生命のお話だった。さっきの桑江さんの話がかなり押してしまったので、巻き巻きの巻きでいくようだ。いつもながらポン酢のポン!カン!ロン!大三元役満!とテンポが良いのですぐに集中して聞き入ってしまうのだが、これがまたおもしろいだけじゃなくて説得力もハンパじゃないのである。たった500億円のエンセラダス生命探査費用の価値についても、ついノせられてしまい、つい引き込まれてしまい、つい信じてしまい、我に返った時には多額の寄付をしていたという人々の余生を想像する。しかしきっと無一文になりながらも「ああ・・・あのとき寄付しといてよかったなぁ・・・それにしてもいつになったらエンセラダスの氷がもらえるんだろう・・・まあ融資じゃなくて寄付だからね・・・エヘ・・・エヘエヘへ・・・」とずっと妄想や夢を抱けてほんの少しでも幸せを感じられるのではないだろうか。たぶん人類みなそうだと思う。そうゆうもんだと思う。そうゆうもんよ。そらそうよ。(詐欺ではありません)


最後はフォーシーズンズによるエンセラダスからのサンプルリターンドラマが繰り広げられる。宇宙空間で、、、ここまで書いてマジでサイトウさんのことを忘れていた。マジだ。サイトウさんは、ニセ・タッカイから頻繁に名前を間違えられ、いちいちキレながらも必死にサンプルを持ち帰ろうとする宇宙飛行士役だ(正しくはニセ・タッカイ、女優2名、サトウさんでフォーシーズンズでした)。
ええと・・・宇宙空間で、このまま地球に着陸してもサンプルもサイトウさんの人命も失われてしまうという極限な状況に立たされる。そこでニセ・タッカイの秘策により、なんとサンプルもサイトウさんも両方とも奇跡的な生還を果たすことになる。着地したところ・・・そう・・・それは・・・ヨコスカだった。ヨコスカ・・・トモダチ・・・こ、これがあのポスターの意味か・・・!そうなのか・・・!!ホールは感動の涙で潤うと、最後はケン・タッカイ総司令(高井さんの変身後)が登場し、パーフェクトな決めゼリフで幕を下ろした。そして、全米が泣いたらしきサイエンスヒューマンドラマ「Eternal Return」で全横須賀が泣いて、宴は闇に包まれた。


帰りの車の中でリサからいろいろな話を聞いたが、その場にいたので聞いた話ばかりなのになぜか「いたの?」「え、いたの?」とばかり言われる。ボクはそんなに透けてきているのだろうか・・・。ショーの楽しさですっかり忘れていたが、暗くなった帰り道にトモコの家がある。秘策のない絶望的で透けてしまったボクは、ただただトモコへ向かって墜ちていくだけだった。トモコ・・・トモダチ・・・トモコ・・・マイフレンド・・・。


高井研さん、桑江朝比呂さん、平朝彦理事長、薄くなったニセ・タッカイ
高井研さん、桑江朝比呂さん、平朝彦理事長、薄くなったニセ・タッカイ


2016-09-24

砂煙の千葉県立中央博物館

こんなにも暖かいというのに、今日は珍しく東京の洒落た街で的屋をしている。ビールは売ってないが店の敷地内には冷蔵庫があり、冷えてもいないのに「冷えてます」という謎の張り紙がされている。さらには深海生物を模した派手なマグネットが冷蔵庫を覆っていた。

店番をしていると、奇抜な格好をした人や、どこの国から来たのかよく分からない外国人が前を過ぎていく。隣の店の主は急病で休みらしい。心配しながらも、代役の女性店番長がコンビニで買ってきてくれたグミをほおばっていた。グミなど子供のおやつだと言わんばかりの彼女は、ボクから無理矢理掴まされたグミにハマり、そうでしょうそうでしょうなどと笑いながら過ごしていた。そんな穏やかさを吹き飛ばすかのように、突如として辺りが砂煙に包み込まれた。気づくとそこにはマスクをしてキツい目を覗かせた年配の女性が改造ベビーカーに手を掛けて立っていた。

それ、全部いただくわ

彼女は冷蔵庫を一周してからそう言い捨て、モノも持たず、さらに高々と砂煙を巻き上げながらベビーカーと共に消えて行った。どうやら次の商品委託先は、D・原田さん(砂煙上げた人)率いるミュージアムショップにお世話になるようだ。


この夏、千葉県が熱い。千葉市にある千葉県立中央博物館では10年振りに深海展が催されるらしい。関係者にとっても念願の企画展ということで、展示やグッズはもちろん、全体のデザインもプロイラストレーターの友永たろさんが手掛けるなど、かなり気合いが入っている。これでは砂煙が上がっても仕方がない。


千葉県立中央博物館
驚異の深海生物―新たなる深世界へ―
2016年7月9日~9月19日

千葉県立中央博物館 驚異の深海生物 正面玄関の正面
千葉県立中央博物館
驚異の深海生物
正面玄関の正面


ボクは千葉県の漁師町でボーっと育ったが、千葉市には縁がなく、たぶん行ったことすらない。しかし故郷の県というだけで妙に親近感を覚えるもので、必然的にチカラも入るみたいだ。2ヶ月を超える会期だったが、シゴトもやり遂げたことだし、会期の終わりが近づく頃にごあいさつも兼ねて潜入することにした。


出発は日曜日。代表も一緒に行くべきであったが、若干健常ではなかったため、大事を取って一人で車に乗り込んだ。首都高を走り出すと、レインボーブリッジの虹をくぐるどころか、真っ黒に染まった空がどんどん迫ってくる。そしてとうとう雨までフロントガラスを叩き出した。臭い…臭うぞ……そう感じながらも湾岸を飛ばした。


D・原田さんより、事前に裏口から潜入せよとの指令があったので、真面目に裏口から潜入した後、真面目に玄関から潜入した。受付で甲殻類研究者の駒井智幸さんを呼べとの指令もあったので、真面目に駒井さんを呼んでもらった後、真面目に駒井さんを連れてきてもらった。(このくだりはよくわかりません)

チバテレビの取材で短パンを披露されてスターになったという噂の駒井さんに、たまたまテレビを観て駒井ファンになった女性の方がいますよと伝えたら、顔を覆い隠しながら「短パンがぁぁぁ!短パンのせいでぇぇぇ!」と照れていた。どんな女性なのかお伝えするのを忘れたが。
そんな短パン関連でなにかがあったらしき駒井さん(ここからは短パン王子と呼びたいが我慢)が、館内をガイドしてくださるというのでぜひ案内してもらうことにした。入場料は500円。安い。企画展だというのに安すぎる。これではふるさと納税にもならないじゃないかと、「私をスキーに連れてって」の純白のスキーウェアのような制服を着た受付嬢2名を睨みつけていたら、ペタッとTシャツの袖にナニかを貼られ、そのまま館の奥へと搬送された。

まずは、駒井さん達が論文を発表して新種記載されたという最近話題になっていた「ダイオウキジンエビ」というエビを見せてくれた。なぜかニヤニヤしていた、二人で。漢字で書くと「大王鬼神蝦」。いかにも厨二関係者にウケそうな和名だ。「これはまたすごい名前ですね…」と言うと、「これねぇ、こないだ某新聞を飾る予定だったのに、北朝鮮がぁぁぁ! 北朝鮮のせいでぇぇぇ!」と、博物館の中心でミサイル問題が一面を飾ったことを叫んだ。「キジン」もだんだんアッチの漢字にしか見えなくなってキタが我慢。

鎮座するダイオウキジンエビ
鎮座するダイオウキジンエビ


メイン展示コーナーへ移動すると駒井さんは、「今日はよく(お客さん)入ってるねぇ、うれしいねぇ」とすごく喜ばれていた。見渡すと確かに人は多いものの、標本は見放題、写真も撮り放題のように見えたが、同時に通常開館日の様子も見えたような気がして相槌を打った。

「テキトーにご覧になったら声かけてください」
「テキトーにみたらお声をかけます」
というテキトーな会話を交わし、テキトーにフラフラみていて、テキトーに熱水コーナーに差し掛かった瞬間マジになってガン見していたら、背後からただならぬモノを感じ、振り返ればヤツ…じゃなくて彼女がいた。

お茶でもしませんか?

D・原田さんのお出ましである。ちょうど口と喉と眼球がそこのシンカイクサウオ標本のようにシワシワになっていたので、すぐに噛みついてご一緒することにした。幸いなことに今日はベビー改造車を引いていないようだ。もしここであの砂嵐を喰らっていたら、全ての水分を奪われたあげくミイラ化して常設展示されるところだった。アブなかった。

館内のカフェの入口で待てと指令があったので、真面目に(略)。D・原田さんは「オシャレなカフェじゃないのよ」と恥ずかしがっていたが、確かにオシャレじゃなかった。しかしガラス張りの店内を覗くと、テーブル側の窓から見える景色は超深緑。草! 木! 葉っぱ! ちょっと東京では味わえそうもない魅力的な景観のカフェだった。そこへテキトーにフラフラしていたらしき駒井さんが現れ、さらにD・原田さんが現れ、集団カフェをすることになった。

こんな秘境の中に博物館がある あの池には何が棲むのか
こんな秘境の中に博物館がある
ネッシーでもかくまっていそうな池もある


アイスコーヒーで身体を戻していると、D・原田さんと駒井さんの異色デュエット曲「忙しいのはいいことよ」「忙しくなんてなりたくないのよ」が歌われていた。企画展始まって以来、超多忙で一日も休んでないそうだ。
そうですよねーとか言ってたら、突然D・原田さんが「お子さんは?」と聞いてきた。「いえ…」と答えた。と同時に空気がおかしくなるのを先読みして間髪入れず、「D・原田さんはすごく小さなお子さんいらっしゃいましたよね」と聞き返した。

孫です

ピキーーーーーン!

歳の計算が合わないと思ったでしょ

ドカァァァーーーーーーン!

D・原田さんはボクの爆死を確認すると、「駒井さんの奥さんって峰不二子に似てるのよ」と地雷を置いた。……この変態にして峰不二子アリ…いや…この奇人にして峰不二子アリ…あ、言っちゃった…いやいやなんて失礼な……気になる……と心の中でまんまと地雷を踏み、再爆死したのだった。


では館のバックヤードをご案内します。
駒井さんが張り切って言った。初めて通されるバックヤード、胸が高鳴る。D・原田さんもパーティーに加え、洞窟のような通路をひたすら歩いた。途中で洞窟内に住んでいる地底人のような人に出逢い、駒井さんはボクを紹介してくださるも、その地底人は多彩な表情を繰り出すも声を発する事はなかった。長い年月、人と接しないで暮らしているせいか会話ができなくなってしまったのかもしれない(後に研究者だと知る)。
やっとの思いで奥底へ辿り着くと、そこには生物標本で埋め尽くされた図書館のような空間が広がっていた。焦点が定まらないまま呆然としている間に、D・原田さんは砂煙を舞い上げて姿を眩まし、駒井さんは召喚士のように次から次へと熱水に棲む生物標本を持ち出して来てくれた。最初に「熱水が好きです」とお伝えしてあったせいか、貴重(だと思う)なモノばかりだ。出よ、ヨモツヘグイニナ、アルビンガイ、巨大ユノハナガニ!

会いたかったヨモツヘグイニナ 手のひらぐらいの大きさでズッシリしている 殻頂の溶け具合も貫禄がある
ヨモツヘグイニナ
ズッシリ

アルビンガイも殻頂が溶けている 毛を撫でて遊んだ
アルビンガイ
モッサリ

ナギナタシロウリガイ おそろしくカッコいいフォルム 人が握るためにこの形に進化したとしか思えない
ナギナタシロウリガイ
ギュット

ラウユノハナガニ ユノハナガニを見たことあると巨大さにビビる
ラウユノハナガニ
(デカさに)ギョット

ぜんぶ触ってよいよ?(そのかわり何か作ってね)と仰るので、お言葉に甘えて触りまくっていた。しかし、熱水の神はアノ時のボクを赦してはいなかった。
マイマニピュレーターでシンカイヒバリガイを掴んだ瞬間、摩擦係数がゼロとなり、それはコンクリートの床に落ち、それから軽やかな音を響かせ、熱水の神は空間を支配した。

呪いだ……
これはあの時、あの場所で、あのカメラの前で、シンカイヒバリガイなんて掴みどころがない、コメントなんかしようがないなんて罵ったせいで呪われたんだ……
祟りだ……

と必死に呪いや祟りのせいにしてひたすら謝罪して懺悔した。
まったくもって幸いではないが、幸いなことにJAMSTEC様のような研究機関からの借り物ではなく館の所有物だそうで(もしかしたらやさしさでそう言ったのかも)、なぜかそこに置いてあった老眼鏡に異物感を覚えてビックリするも、ほんの少し安心したのだった。


問題のシンカイヒバリガイ 実は裏側が割れているのを隠蔽している いかにもすべりそうでしょ?
問題のシンカイヒバリガイ
実は裏側が割れていることを隠蔽したアングル
すべりそうでしょ?


一つの大罪を犯して希望を失ったボクは、当然のように駒井さんの研究室に収容された。大きなテーブルと本棚があり雑多だった。しかしおもしろそうなモノがたくさん視界に入ると、僅かに正気を取り戻していた。

黒スケーリーフット いまのボクの心を表しているように無惨ではないか… ねぇ、スケーリー…
黒スケーリーフット
いまのボクの心を表しているように無惨ではないか…
ねぇ、スケリン…

先にも書いたが、駒井さんは甲殻類の研究者だ。研究対象のエビなどが載った図鑑のような本を持ってきてくれ、ペラペラとページをめくりながら解説してくれる中、自分が描いたというエビの絵を指し、「絵が描けないと研究者はダメなんですよ」と言った。すると頭の中でボヤァァァとナニかがシンクロしはじめた。


   悲報  呪い
詰んだ まだですか
 論文   ダメ 研究者
  絵心ゼロ
 スケーリーフット        飛行機墜落
 15年 学名 ダメ
      Crysomallon

(わかる人だけへ)


もうダメだ…頭がおかしくなってきた…もう帰る…
ズタボロになりながら洞窟から生還すると、ミュージアムショップでD・原田さんがお客さんに声を掛けながら威勢よくグッズを売りさばいている姿が見えた。そうかあの砂煙はここへ繋がっていたのか。そういえば、先に潜入した同志が「ショップで深海マザーさん推されてたよ」と言ってたな。どれどれちょっと見てみ……


クマムシさんかわいいよー
ぬいぐるみかわいいですよー


_人人人人人人_
> クマムシさん <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄





千葉県立中央博物館、ミュージアムショップのみなさま、
お世話していただき誠に有り難うございました。

2015-12-27

かじかんだ手に温もりを

今日は北風が厳しくて、今年初めて犬の散歩中に手がかじかんだ。暖冬暖冬言っても寒い日はたくさんあるものだ。こんな日にはうちの暑がり犬、ボブがよく歩く。シベリアンハスキーの混血が噂されるボブは風が強ければ強いほど、吹いてくる方角へ向かっていくようにノンストップで突き進む。ボクは寒がりなので、肩をすくめたり、時たま後ろ歩きをして正面から風を受けないようにしながら付いていくのがやっとだ。ソリで引っ張ってもらいたいぐらいだが、多分ボクがソリに乗ったら一歩も歩くことはないだろう。

住宅街のあちらこちらで、「火のよーじん!カンカン」と人々が年の瀬を知らせている。狭い路地をカクカクと進みながら所定のAコースを歩き切り、休憩所であるいつもの小さな公園にたどり着いた。ボブが真っ先に向かったのは蛇口のある水飲み場だった。この乾燥ですばやく動けばやはり喉が渇くのだろう。とは言え、犬の水飲み場ではないので直接飲むことはできない。まずボクが蛇口をひねり、手を皿のように作って冷たい水を受け、そこに溜まった水をペロペロと飲むことになる。既にかじかんでいる手を見て少し躊躇ったが、蛇口を直接なめられては後の人に迷惑を掛けるので、仕方なく片手で皿を作って水を落とし始めた。

すると、どこからともなく「火のよーじん!」の行列が現れた。数十人規模の大行列だった。ボブはそれに気を取られて固まった。構わず冷水がボクの手を流し続けている。「早めに飲め」と言っても長い列をひたすら見ている。手はジンジンし始めている。列はまだある。もう手も厳しくなってきたし、もう飲まなくていいんだろうと思って皿を割ろうとした時、ペロッと一口だけ口をつけてそこを去った。この一口のために手を痛めたのか・・・。まあいいと思ってポケットに手を入れたが、まだ湿っているからか、なかなか温まってこない。そこへ、もう片方の手に持っているモノの存在に気が付いた。触ってはいないが、まだ生温かいような気がした。それはビニール袋に入った、さっき向こうでやってきたボブのモノだった。心の隙を突かれ、気付くとボクは、まんまるい月を見ながらソレを掴み、暖をとっていた。遠くの方でカーンカーンと心地よい音が鳴り響いていた。

2015-12-25

メニーメニーチキン

クリスマス・イブがやって来た。若い頃は、「日本人のボクには関係ないのにケッ」としか思っていなかったが、次第にその尖った精神も丸くなり、どうでもいいじゃないか、なんだか雰囲気明るいし、ケーキ食えるかもしれないしと、今では普通に楽しんでいる。とはいえ特別な何かをしているわけでもないが。

スーパーへ買い物に行くと、きらびやかにクリスマスコーナーが特設置されており、惣菜コーナーから精肉コーナーまで七面鳥で溢れていた。メニーメニーチキンだった。鶏肉を見てとっさに浮かべてしまうのが屠殺場だ。某大手鶏肉店に卸すための屠殺場で働いていた知り合いから、なかなかエグい話を聞かされて生命について考え込んだ事がある。今ではすぐに掻き消せるほどになったが、肉を見た時の一瞬だけはどうにも仕方がない。

それにしても、夕飯時を過ぎているにも関わらず大量に売れ残っている。そう言えばここへ来る途中、人気の鶏肉専門店がいつもよりも遅くまで片付けをしていた。客足がそっちに集中したのだろうか。個人的には小さな個人経営店なので応援の意味も込めていつもそこで買うが、今日はこのスーパーを応援しなければならない。と思いながらチキンを買って帰らなかった。昨日食べたばかりだったから。

今日売れ残ったチキン、明日もそのまま販売されるといいな。

2015-12-23

孤独なオカメ男

オーストラリアで一般的に見られるオカメインコという鳥を2羽飼っている。正確には、同居人のリサが飼っていた所へ、ボクが寄生虫のように寄生したつもりが、逆に世話を任されるようになっただけなのだが、特別なつかれてはいない。リサがダイバーということもあるせいか、名前は「シーちゃん」「フグ」とついている。

シーちゃんは、海の "sea" から取った名で、白と薄いグレーの体色で白い鶏冠を持ち、オカメインコの最大の特徴とも言える頬紅を塗っていない「ホワイトフェイス」という配合種の雄である。
フグは流れ的に「河豚」から取ったと言いたいとこだが、伝説のK1ファイター「アンディ・フグ」から来ている。当時聞いた時の驚きは忘れられないが、グレーの体色で黄色い鶏冠を持ち、永遠に色褪せることのない橙色の頬紅を塗っている「ノーマル」と言われる種の雌だ。

フグは、生まれつきくちばしの上下がずれていてうまく噛み合わない。餌もシーちゃんと比べると上手く食べられないが、ずれていることで何より危険なのは、放って置くと伸び続けてしまう尖ったくちばしの先端が、下からえぐるようにぐるりと巻いて自らの喉へじわじわと襲いかかる事だ。もしもオーストラリアに生きていればと考えると、喉を圧迫されて苦しんだあげく、乾ききった土地に墜ちて骨になってしまう事を想像する。売れ残っていたのをリサがわざわざ選んで買って帰って来たらしい。

毎月フグを鳥獣医の所へ連れて行って、くちばしをニッパーでパチンと切断してもらう。この定期メンテナンスは、作業的には飼い主自ら出来ることなのだが、これがまた厄介なことに身体を掴んでトリ抑えると、多くのオカメインコはストレスで鼻を真っ赤にして「てんかん」を起こす。そのまま死んでしまう場合もあるそうだ。時間は短ければ短いほど良いとの事でプロにお願いしているのだが、この先生も数をこなす毎にレベルを上げている。今ではほんの数秒で始末出来るようになって・・・と先生の事を書いてると、おもしろエピソードが思い起こされてどんどん出て来てしまうのでまた別の機会に書こうと思う。

フグはさておき、実は真の問題はシーちゃんにある。いたって健康で、フグと一緒にいさえすれば、ウグイスを真似た「ホーホケキョ」の歌声が一日中鳴り響く。ウグイスの真似と書いたが、実際は「ウグイスを真似た飼い主の口笛の真似」というワンクッションがあるので、たまに本物のウグイスの声を聴く事があると、あまりの質の違いにびっくりする事もある程だ。数年前、その偽ホケキョが、セガトイズの大ヒット商品「夢ことり」のモデルになった。愛鳥家に大絶賛されたそうだ。家まで声を録りに来たメーカーの収録陣達は、オカメインコも「ホーホケキョ」と鳴くのだという事を最後まで信じて疑わず、熱心に辛抱強くマイクを傾け続けていた。ボクらは笑いを堪えながら収録を終えるのを待っていたが、まさか本当にオカメインコの鳴き声として商品化されるとは思っていなかったのだ。

どこかのご家庭で活躍中の偽ホケキョの映像はこちら。




脱線したが、フグがくちばし切りに出掛けると、一人でウグイスの練習を始める。どうやらウグイスに成りきる事がセックスアピールに繋がるという不純な教えをどこかで聞いてきたらしいが、昨日初めて何気なくリサの肩に置いてみた。すると一声も発しない。うざったくなるぐらいの存在感が微塵も感じられない。一体どうしたのか。それから数十分経っても黙ってじっとしている。ああ、これはフグの死を悟った(また間違っている)のだな。肩に乗せた事で、これからは飼い主を相方として生きていかねばならないという鳥生に入ってしまったのだなと思った。こんな小さな1羽の鳥からでも発せられる孤独感と絶望感は半端じゃない。これはいつか本当にフグが逝ってしまった時の疑似体験に他ならない。今にも自ら目を閉じてしまいそうな男の刹那さよ。

フグはもうとっくに平均寿命を超えている。